斉藤さんは「ほっとくらぶ」という患者さんの会の代表を務められているそうですね。
あるお母さんの一言がきっかけでした。
そのご家族とは10数年関わってきたのですが、ある時お母さんに「今この子とどういうことをしてみたい?」って聞いてみたんですよ。そしたらお母さんが「この子とゆっくり温泉に行きたい」とおっしゃったんです。
連れていったことがなかったんでしょうか?
そうなんです。「え?」と思って。
どこかにお出かけすることはもちろんあったのですが、学校の先生や施設の先生と一緒に行くことがほとんどで、お子さんとの旅行を目的に家族が出かけることはなかったそうなんですね。
なるほど・・・
それなら何か手伝えることがあるかも!と思って。
海や温泉に行きたいというときに、ご家族だけで出かけるのはとても大変なので、有志が一緒になって、出かける先を決めて、ある程度そこで困らないようなセッティングをしてあげると、私たちも楽しめるし、子どももご家族も楽しめるよねという活動をしているのが「ほっとくらぶ」です。
支援者も楽しめるというのはいいですね!
こども病院の看護師さんや福祉関係の方も参加してくれました。患者さんの家族もスタッフとして入ってくれて、会計を担ってくれています。負荷が増えることを心配していたのですが、「元銀行員だから任せて!」とおっしゃってくださって。
一緒に作っていく感じなんですね。
ご家族としては、なんでもやってもらうのはかえって負担に感じるそうです。一緒にやるという感覚は大切かもしれませんね、
どんな催しがあったんですか?
基本はどこかにお出かけをしています。富山に行ったりとか新潟に行ったりとか、人工呼吸器を使用しているお子さんもいます。真冬と真夏はお子さんの負担が大きいので、その他の時期に年に4回くらいです。非日常を味わっていただきたい、それが私たちの願いです。
ご希望するご家族がいれば入れるものなんですか?
新しく参加される方もいらっしゃいます。
そういう時は注入食はどんなものがダメなのかとかアレルギーはどうなのかとか詳しく私の方で聞き取りをさせていただいています。
人工呼吸器を利用しているようなお子さんもいらっしゃるんでしょうか?
福祉車両を使って人工呼吸器をつけているようなお子さんでも一緒に出かけています。心疾患のお子様や自閉傾向のあるお子様もいらっしゃいます。
もちろん私たちがすべて診れるわけではありませんので、ご家族も一緒に来ていただいて、一緒に責任持ってやっていただけるなら大丈夫、というスタンスです。
環境を作るのが私たちの役割ですね。
コロナ禍で難しい部分もあったのではないですか?
そうですね。しばらく中断していましたが。今年再開できました!
ついこの前筑北に出かけて5家族が参加してくださいました!
家にずっといると煮詰まってしまいますしね。他にも同じ環境の家族がいることに気付いたり、健常者でも理解してくれる同世代の子どもがいることに気付いてもらえるきっかけになればいいと思っています。
ほっとくらぶのイベントには医療的ケアのあるお子様のご兄弟が参加することもあるんですか?
あります。
そうなるのが一番いいと思っているんですよ。
医療的ケア児が小さい頃って本当にどこにも出せないんですよ。
ずっと我慢しているご兄弟もいたりしてね。
そうなんですか・・・
ご兄弟については私たちにできることは限られていますよね。
当事者の子どもとご両親については関われるんですけど、ご兄弟については制度的には関わりようがないんですよ・・・。
盲点になっているんですね。
でも家に入っていると、(ご兄弟が)この子大切な時期だよなあとか思うわけです。
だったら医ケアのあるお子さんをレスパイト入院してもらって、ご兄弟との時間を作った方がいいんじゃないかなと思った時は、お母さんにそういう話をする時もありましたね。
レスパイトにはそういう意味合いもあるんですね。
ご兄弟の孤立が深刻なこともありましてね。
笑顔がなくなったり、発語しなくなったりしてね。
ほっとくらぶの活動が何かご兄弟の自信につながればいいなと思って。
なるほど・・・。
こども病院で「心の絆創膏」っていうのが売っていたんですよ。
その中に「あなたは絶対大丈夫」と書いている物があって、そのお兄ちゃんにあげてみたんですよ。「ふーん」って言って受け取ってくれたんですけどね。
そしたらだいぶ後になって、その子はずっとその絆創膏を大事にしてランドセルに貼ってくれていたんです。私もう涙が出ちゃって・・・。
気にかけてくれる人がいることが嬉しかったんですよね。
ご家族がギクシャクしていると、患者さん本人に影響が出てきます。
ですから私たちとしては本音でご家族と付き合えた方がいいんですよ。
と言いますと。
訪問看護というと他人が家に入ってくるわけじゃないですか。
そうすると人によっては家を掃除しなきゃとか、いい顔しなきゃとか思う人もいらっしゃって。
私たちはそんなこと全然気にしていないんですよ。
困っているなら、本当に困っていると言ってくれた方が私たちも援助しやすいです。
なるほど。
悪くなったら来てねという病院のスタンスがあると思うのですが、訪問看護のテーマは悪くならないようにどうしたらいいかを考えることです。
どうしても具合が悪くなってしまった時は病院にかかることを勧めたり、説明が得意でないご家族の場合は、私たちがメモを書いて病院に持っていってもらうこともあります。
すごく個別性があるんですね。
経験がないと難しそうに思えますが・・・
ですので、経験を伝えていくことも大切だと思っています。